2 書庫
司令室を出たホークアイはまさに文字通り、鷹の目を光らせながらロイ探しに前進していた。
こうしていると中央時代を思い出す。彼女がロイと出会ったのはイシュヴァールの地だ。
士官学校を卒業するや戦地に放り込まれたのだが、そこで紆余曲折あり、終戦後彼の副官となったのはもう6年も前の話である。
しかしデスクワークが嫌いなのは当時から一向に治らず、中央時代は逃亡するたびに探すのに酷く手を焼いていた。親友ならまだ少しはうまく探せたのかも知れないがただでさえ忙しい男なので、ロイの我侭でいちいち振り回す事は出来ない、とそう自分に言い聞かせて。
でも心のどこかで楽しかった。いらだたしい事も腹立たしい事もあったけれど、見つけたときの少しばつの悪そうなそれでいてほっとするような顔を見るのがホークアイはすきだった。
彼は男で、優秀な佐官で、ましてや人間兵器とまで言われる国家錬金術師だ。己の力などどれほど役に立つのかなど知らない。
でもどこかうっかり抜けているところがあって放っておけない。守らなければと、そう思わせるものがある。
しかし東方に移動になって少し。南部から少し風変わりな男が厄介払いのようによこされた。
長身だけど猫背気味でハンサムなのに咥え煙草がだらしない、自分よりも更にまだ若い下士官だった。
彼はホークアイがあれほどてこずっていたロイ探しの名人で、ロイの逃亡中に司令部にやってきてまだ彼の容姿も性格もよく知らない状態で、見事にロイを発見したのだ。
この男なら、手駒となりうるかもしれない。
あまり周りに人をおきたがらないロイだが、頼りにしている親友とも離れた東部で味方が自分ひとりというのは彼を守るのに十分ではない。
即座にそう判断し、渋るロイに無理矢理ジャン・ハボックというその男を護衛につけた。もし少しでもハボックがロイの邪魔になるようなら自分が責任を持って遠ざけようと。
そしてホークアイの目に狂いはなかった。
ロイはハボックによく懐き、ハボックもロイに忠誠を誓っていたので安心してロイを任せたのだ。
そんな訳ですっかりロイ探しはご無沙汰になっていたので、今日は久しぶりの出陣である。
司令室を出て彼女が真っ先に向かったのは書庫だった。とは言ってもちゃんとした司書の受付嬢がいるほうではなく、ロイがこちらに赴任してから主に錬金術関連の本などを持ち込んでこしらえた小さいほう。
ものがごちゃごちゃ乱雑に置かれている部屋だが、日当たりがいいのでロイは枕まで用意してよくここで昼寝をしているのである。
がしゃん。
愛用の銃を片手に構えなおして、ちゃんと突入の準備をする。実際に発砲するのはごくたまにだし、たとえかすり傷ですら付ける気はないが、威嚇としては有効である。
「大佐!おりますか!」
足でドアを蹴って声をあげて突入した。
しかし書棚の間も注意深く見ながら奥へと進んだが、期待と違ってロイはその場にはいなかった。
「あら・・・」
昨日仕事をして放りっ放しだったのか、何冊か本やファイルが地面に散らばっている。ファイルの類はいまロイが抱えている事件のものだったが、本は銃器関係のものばかりだった。
ロイも士官学校を卒業しているので的に当てる程度には銃を扱えるが、実戦で使い物になるほど技術があるわけでもないし、いざというとき身を守る錬金術を使えるので他の軍人と違ってあまり銃には興味がない。いま使っているものも、軍から支給される憲兵などが一般的に装備しているものと同じだ。
軍の備品でも買い換えるのだろうか。
何か腑に落ちないものを感じながら、ホークアイは書庫をあとにした。



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ハボロイのようなアイロイのような。
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