僕らは玩具の銃を手に。/9
今度はどちらからともなく唇を重ねた。そんなはずないのに、ほのかに甘い味がしたと思った。
一度離れてすぐさま噛み付くように唇を奪い、歯列を割り、舌を舐め上げる。
ロイの唇は女性と変わらないほど柔らかくて、低い体温のそこだけがほのかに暖かい。
「…ふ、う……」
酸素を求めて逃げるロイを解放すれば、艶やかな甘い吐息が漏れた。
少しくらい抵抗されるかと思えば嬉しい誤算で、従順に瞼を閉じて母親に縋りつく赤ん坊のように一心に吸い付いてくる。
その隙に上着の襟元に手を入れて取り払う。ワイシャツのボタンもひとつずつ丁寧に外して、素肌が外気に晒されると寒いのか首筋に回された腕の力が強くなった。
「……っ、あ…」
繰り返されるキスと首筋を這う舌の感触に、徐々にではあるが彼の股間が固くなるのが布越しにでも密着した身体から伝わる。
ズボンのジッパーを下ろして脱がそうとすると、ロイは恥ずかしそうに目元を赤く染めたまま、ハボックの手を押さえた。
「……いい。自分でやる、から」
「させてください。お願い?」
年下の特権を生かして上目遣いでおねだりすれば、それでかわいこぶったつもりかと毒を吐きながらも、効果は充分だったらしくロイは大人しく手を離した。
ズボンを引き抜くとすらりと伸びた足が露わになる。オーバースカートに隠された場所への期待に思わずごくりと唾を飲み込めば、そんなハボックよりまだ余裕があるのか、若いなとからかうようにロイが笑った。
ムキになって手首を取ってシーツの上に縫いつければ、途端に慌てる彼を逃さず、腕に引っかかっていたシャツもスカートも取り去ってベッドの下へ落とす。
はじめて見た彼のすべては、予想以上にハボックを煽り立てた。
当然女性のような柔らかさは持ち合わせていないし、男の骨っぽい身体はあまり抱き心地がよさそうにも思えなかったが、所々に古い傷跡の残る白い肌はそれでも滑らかで綺麗だった。
彼に関するよろしくない噂はいくらか聞いたが、さすがに男に押し倒された経験はなかったのか、まるで処女のように緊張していて身体はかたく瞳は若干潤んでいた。
面倒なので女性と付き合うときはできるだけ初めては避けていたが、ロイだと思うと興奮した。
すっかりのぼせ上がって夢中で跡をつければ、まっさらな雪の上に落ちた花びらのように刻まれる。
触ったときはひんやり感じられたほどの身体は徐々に熱をもって、うすくピンク色に染まっていた。
「……ハボ」
熱い吐息の合間に甘えた声でくいくい、とロイはハボックの服の裾を摘み上げる。
上着以外脱いでいなかったので、請われるままに自らも服を脱ぎ捨てた。
「ここ、舐めてもいい?」
「……ん」
淡いピンク色に色づいている飾りを舌で舐めあげると、最初は触れるか触れないかほどの頼りない感触だったのが、次第につんと立ち上がって色を濃くした。
もう片方も指で押しつぶすようにしてやれば、淡いため息が唇から零れる。
「っあ……あん……」
「男でもここで感じるって本当だったんスね。中佐、可愛い」
「…ば…っ、きもちの悪いこと、言うな…あっ…」
感じ入った目をしながらも、相変わらず口は可愛くないロイに突起を歯で刺激してやれば甲高い悲鳴をあげた。
焦らすように周りを撫でれば、むずがるように首を振って髪の毛がぱさぱさとシーツを打つ。首筋や鎖骨を舐めながら硬くなった乳頭をつまんで弄っていると、そのうちロイがもぞもぞと落ち着かない様子で腰を動かした。
視線を落とせばロイの中心は半ば勃ちあがっていて、先端から雫を滲ませていた。
間違いなく自分と同じものだが、サイズも色もそれほどグロテスクではないのでそれほど抵抗なく触れて、やわやわと揉みしだいてみる。
「ちょっ……馬鹿、どこ……んっ!」
自分も女性にしてもらったことがあるが、他人の手というのはとても気持ちいい。同じ男なのでどこをどうされると気持ちいいかもすべて分かる。
強く握りこんで耳の裏を舐め上げると、どうやら弱いらしく抵抗しようとしていた腕が呆気なく落ちた。
先端をぐりぐりと押し潰してくびれを擽り、根本にある双つの玉を握りこむ。それだけでたまらないほどの愉悦が生まれるのか、ハボックの手の中であっという間に反り返るほどに育った。
身体は小さく震えているがそれは恐怖や嫌悪のためにではなく、興奮と期待からだと恍惚とした表情が語っている。
硬くなったものは溢れるほどに先走りを滴らせ、自らのものとハボックの指に絡みつく。
割れ目に爪を立てるように刺激を与えれば、ロイはますます呼吸を荒げ、最後には悲鳴に近い声を出した。
「や、いや……あ、あっ…!」
子猫のように全身を小刻みに震わせた後、勢いよく精が吐き出されてハボックの手やロイの腹を濡らした。
やわらかな黒い下生えも精液で汚れる。
「は……ぁ…んっ…」
射精の余韻で息をついているのを見計らって、日に焼けていない白い太腿を大きく左右に割り開いた。
他人は愚か自分でも、誰の目にも触れさせたことのない場所を晒すことに羞恥心が勝ったのか、咄嗟に膝を閉じようとするのを強い力で押し留める。
「やだ…ハボック……」
か細い今にも泣き出しそうな声でロイは訴えるが、ちゃんとしないと辛いのはロイだと男性経験のないハボックにだって分かる。
「中佐、隠さないで」
「だって……」
「たくさん見せてください。もっとあんたに近付きたい」
上気した頬、あちこちに散らばる己のつけた跡、真っ赤に染まった胸の飾り、まだ熱の収まらないロイ自身、そのもっと奥に隠された蕾。
こんなに淫らでいやらしくて可愛いロイ。
何の折にだったか、同性とのセックスについてかつての相棒がからかいに吹き込んできたことがあった。
その時はこんな日が来るなんて思わなかったのですっかり聞き流していたが、もう少しちゃんと聞いておくんだったと思う。
とりあえず持っている知識を総動員させて、男のそこは勝手には濡れないし慣れていないと凄くきついと言っていた気がする。
なだらかな双丘の谷間の奥へ徐々に舌をすべらせた。窄まりはかたく閉じていたが、唾液で濡らして指で周囲を広げてやれば、次第に赤い秘所を覗かせる。その隙に浅い部分へ舌を差し入れた。
「い、やっ……あん…あ……」
緊張をほどくように丁寧に舐めあげ、唾液を丹念に塗りこめる。乱暴に突き入れてしまいたいという薄暗い欲望も腹の奥底にはあったが、それよりもいまは優しくしたかった。
ハボックの舌を受け入れるために腰をあげさせられたせいで、無防備に灯りの下にさらされている秘所に、指を一本入れてみる。
はじめて触れたロイの中はとても狭くて酷く熱かった。
くちゅりと卑猥な音が響き、体内からロイを犯していることに興奮は募る。
探るように浅い部分をぐるりと撫で、深い場所へゆっくりと沈めた。最初はひたすら異物を排除しようとしていた粘膜は、根気よくそれを続けるうちにゆっくりと指に吸い付くように馴染んできた。
少しでも楽にしてあげたいと前方へ手をやって、後ろを弄るのと同時にゆっくりと擦りあげた。
「……っあ!ぁ…ん、うっ……」
両方から責め立てられたロイは一瞬身体を強張らせたものの、蕩けたような顔に安堵した。
あちこちにキスをして舐めながら囁いた。
「気持ちいい?」
「わ…わかんな……んっ…あ…っ!」
前を扱きながら指をもう一本内部に潜り込ませると、宙を彷徨っていたつま先がきゅっと縮こまる。
二本の指で中からきつく締まる入り口を広げ、再び奥へと突き入れる。その時しこりのようなものに触れ、電流が走ったような感覚がロイを貫いた。
手を離せばまだ完全に育ちきってなかったものが、張り詰めて腹につくほどに反り返っていた。もう一度そこを撫でるとびくんと反応する。
「やあっ……あん!」
「ここ、感じるんだ」
身体の中にいちばん感じる場所があるなんて不思議だが、ハボックは重点的にそこを押し上げた。ロイの先端から先走りの蜜が零れそれがさらに指の滑りをよくする。
きれいなロイの指と違って自分の無骨な指は二本でもきつそうだったが、徐々に慣らさないと普通と比べても大きい方であろう己は到底入りそうもない。
はしたなく濡れた後口へハボックは更に指を突き入れた。円を描くように掻き回し、内壁を擦りあげる。
勃起した自身はまだ解放までは至らないものの、赤く熟れて今にも弾けてしまいそうだ。
根本を強く握って塞き止めると、今までされるがままだったロイも抗議の声をあげた。
「やっ、何…を、」
「すいません、でも、あんたまたいっちゃいそうだから、ちょっと我慢してください」
「いや、痛い……」
ふるふると可憐な仕草で首を振るので思わず頷きそうになる。
しかし望むように放出させれば体力的に苦しいだろう。ただでさえ自分はまだ二十歳。性欲は旺盛で体力も有り余っているような状態なのに。
「ごめんなさい。俺が挿れるまで待ってください」
キスでなだめながらやや性急に中を暴く。最奥まで指を差し入れては角度を変えて抉る。
咥え込んだところは従順に感じて卑猥な水音を響かせ、ロイの胎内から溢れる淫液がハボックの指を濡らした。
「…ふ……ハボ…も…」
目じりに涙を溜めながらロイが必死にしがみ付く。無理矢理塞き止めているものが達きたくて仕方ないのだろう。同じ男としてその辛さは分からなくもない。
大分従順になってきた秘所にそろそろいいかと、ハボックは一気に指を引き抜いた。
「っあ、んっ…や…ぁっ」
こぷりと音をたてて潤いを与えられた穴はまた窄まる。愛して解したロイの隠された場所は、指三本でこんなになっているのに、本当にこんな小さなところに自分のものが入るのかと不安がよぎる。
ロイも同じことを思ったのか、凶悪なほどに大きくなったハボックのものを一瞥しただけで弱気に訴えた。
「…無理…そんなの、入らな……」
いやいやと拒絶するように首を打ち振るが、ハボックもそれほど余裕があるわけじゃない。
多分我慢できなくはないが、それはかなりの忍耐を必要とするし、何よりロイはもう明日には中央に行ってしまう。
「結構慣らしたんできっと大丈夫ですよ。ちょっとだけ力抜いててくださいね」
撫でられて指の感触を思い出したのか、ひくひくとうごめく蕾に慎重に己を宛がって腰を進めた。
「ん…あ、ぁ…ひあ…あっ!」
指で広げながら先端をそこに含ませる。いちばん張った場所を呑み込ませると少しは楽になったが、ロイを気遣ってゆっくりと茎から根本まで埋めた。
正気に返ったら消し炭かもしれない、ふいにそんなことが脳をよぎるが、それならそれで構わないかと思った。
でもそれは投げやりにでもなく諦めでもなく、ふたりの行き着いた先の未来として。
「……中佐、」
「あ、あっ……く、んんっ……」
散々慣らしたつもりでもそこは酷く狭くて、ハボックもきつかったがロイはもっと辛そうだった。
繋がった場所は千切れそうな程にぴったりと引き伸ばされて、周りは赤く充血している。本能に忠実に従うふりで、生命の仕組みに逆らった営み。
この人、本当はこんなことできないんだ。
今更ながら改めてそう認識して、行く筋も涙を零しながら目を固く閉じて唇を噛み、懸命に耐えているロイに胸が痛んだ。何て可哀相なことをしてるんだろう。
でも止められない。他の誰ともしないことを、いまロイとだけしたいと思う。そしてその気持ちは傷つけたくないと思うことと少しも矛盾しないのだ。
ああそうか。俺、この人のことがすきなんだ。
いくら自分に興味や執着がないとはいえ、繋がってようやく気持ちに気付くなんて鈍感すぎるだろうと、おかしくなる。
「……はは」
「な、に…笑ってる……」
セックスの最中に笑い出したハボックに怒ったような視線を向けてくるが、この状況でそんな顔をされても可愛いだけだと思う。
「いや、俺、あんたのことすきだなあって思って」
そう言って笑った途端、ロイは耳まで真っ赤にし繋がった箇所は更に収縮して、その感覚はそこを共有するハボックにもダイレクトに伝わる。
これは、ひょっとして照れているのだろうか。
子供でも知っているような言葉なのに、年を重ねれば重ねるだけ遠くなってゆく。本当に言いたい時に言えずに手放してしまう。
だけど、頭ではなく心の底から思うことに年齢も経験もなかった。躊躇なんて沸かない。思考よりも最初に感情は容易く溢れ出てしまう。
「すきですよ、中佐」
ロイの胎内は柔らかくて、熱かった。ゆっくりと押し込んでまた引き抜く。
感じる場所に先端があたるたびにロイは高い声をあげて、きゅうきゅうとハボックを締め付けた。
はじめは苦痛の色しか滲ませていなかったのが、少しずつ異なる色が混ざり始めて喘ぎ声も甘くなる。
「……あっ、あ……ん」
「ちょっ……そんな、締め付けないで」
「だ、だって……あ、あぁっ!」
一際高い声がして、締め付けが一気にきつくなった。
腹が生暖かくぬるつくもので濡らされる。ロイは耐え切れず二度目の射精を迎えてしまったようだった。
もう彼の下半身はハボックの塗りこめた唾液と二人の精液でどろどろで、とてつもなくいやらしく映った。
かすかに身を震わせながらロイは荒い呼吸を繰り返す。
「さっき出したのにまだ凄くいっぱい出しましたね。そんなに気持ちよかったですか?俺が」
「……くそっ…」
白旗をあげることが何よりも嫌いなその人は、荒い息をつきながらハボックを強く見つめ返してくる。
痛みや感情よりも生理的な作用で浮かんだ涙が、きらきらと跡を残して白い頬を伝い落ちた。
多分、ひとめ惚れ立ったんだと思う。
内臓まで持ち上げるように激しく抽挿を繰り返す。開かれた蕾は抜くたびに赤く濡れた粘膜を晒して、口の端からは透明な涎が零れ、唇からは意味のない喘ぎ声が漏れた。
ロイは二度も吐精したにも関わらず、ハボックが動くたびに頭を擡げて兆し始める。
ロイの痴態を楽しむために我慢していたが、ハボックももう限界に近くて解放させたくて堪らない。
より深くまで繋がるように足を抱え、纏わりつく肉壁を掻き分けながらぐっとぎりぎりまで深く潜り込み、抜け落ちるほどに浅くまで抜いて律動する。達して敏感になった内部はハボックを受け入れながらもゆるく動いていた。
再び大きくなったロイの先端の窪みに爪を立て容赦なく奥を突くと、柔らかいところが吸い付いてハボックを愛撫してくれる。
「いや…だめ、あっ、あ…あん……っ」
「……中佐、俺、もう……」
「あ、もう、あ―――っ…」
許しを得る間もなく最奥に欲望の証を叩きつけて、一瞬目の前が真っ白になる。
愛しくて嬉しくて、身体中で叫びだしそうだった。
すきだすきだと。
このまま死んでもいいと思えるほどの歓喜と、ロイを大切だと思う感情の飽和で、今まで誰にも触れられたことのない胸の奥が満ちた。




黒い髪の毛に指を絡ませれば、さらさらと抵抗なく指の間を滑って白いシーツに落ちてゆく。
眠たいのかまどろんだ目をしているロイに、ハボックはずっと気になっていたことを尋ねた。
「……中佐は中央に帰ってもまた、あんなくだらない奴らとやりとりをして、出世争いをするんですか?」
ロイにいちばん似合わないと思う。この目が覚めるように高潔で自由な魂を留めてまでするほどのことが、澱んで歪み始めている軍にあるとは思えない。
短い沈黙の後、ロイは覚醒した声できっぱりと言い放った。
「そうだ」
「どうして」
「いちばん上からじゃないとできないことがあるから。そのためなら何だってやる。恨まれようとも嫌われようとも、私は辿り付くまで上を目指すよ」
他の人間が語ったならば誇大妄想だと鼻で笑ってしまいそうなセリフだったが、それがロイの唇から語られるというそれだけでハボックは信じたいと思った。
言いたいことだけ言ってしまうと、やはり生物的に無理な性交のせいかロイのまばたきは緩慢なものになり、やがてすう、と目を閉じて眠りについてしまった。
やはりロイはハボックには理解も共感もできないようなものを見ていたのだと、はじめて会ったときから抱いていた違和感の理由がやっと解消される。
茨の海だと分かっていてなお、そこを行くのだという決意も信念も並大抵のものではない。
誰にも手の届かない場所でひとりきりでも。だからロイは強い。
自分はどうだろうか。
この胸には決意も信念も何もない。目標も目的さえも。
死にたくないから銃を握る。銃を握らないという選択肢もあったのに、気付いたらもう引き返せないところまで来ていて、流されるままここまで来た。
でも、もしも運命というものがあるのだとしたら、自分はこのためにきっと。
家族のためでも、金銭のためでも、祖国のためでも、まして己の信念のためでもない。
「……あんたを護りたいよ」
恋することは失うことに似ていると思った。
自分の心の中にあった柔らかい何かが誰かのものになって、そこに生まれたがらんどうを埋めるために愛することを覚える。
ロイは乱暴でまっすぐな力で、ハボックのそれを奪っていった。いつの間にか。
ひとりの時には孤独だなんて思わなかった。それなのに今こんなにも傍にいて、孤独だと思うこと。
煩わしい、面倒くさい、鬱陶しい。
そんなのはごめんだ。自分ひとりで、自分にだけ責任を持って、生きていくはずだった。
何も持っていなくても、それでよかった。淋しいなんて思わなかった。
でも今は振り切ろうとすればするほど、いとしさと切なさに後ろ髪を引かれる。
消せない。故郷の風景、失ってしまった戦友、風を切って走る感触、ロイのすべて。
こんなにもいとしいのだと、いまはじめて知る。
会いたい。逢いたい。心から。
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