僕らは玩具の銃を手に。/1
何を壊したいの?
その引き金にある指先。



いちばん最初の記憶、というものを思い出そうとしてみたら、脳裏に浮かぶのは祖父と一緒に見た夕焼けだ。
あの場で何をしていたのか、何を話していたのかは今となっては全く思い出せない。
ただ自分がジュニアハイスクールに行く前に亡くなった祖父との思い出の中で、
その風景はやたら強烈に網膜に焼き付いている。
夏の終わり独特の物悲しさを孕んだ空気の中で、目が焼け付くほどの鮮やかな赤い光がゆらゆらと揺れ、
その輝きが海のように広がっていくところが。人も景色も見たこともないような真っ赤な海に呑みこまれてゆく。
でもどうしてかすぐ傍にいたはずの祖父の顔だけは、逆光で暗くてよく見られなかったのだ。
目が醒めるというよりは、引き込まれてしまうような黄昏の空を子供心にも怖いとも美しいとも感じて、
それからしばらくはひとりで夕焼けが見られなかった。
東部よりもやや南部に近い山の麓にある田舎の村でハボックは育った。
殆どの家が農作で生計を立てている中で、家は雑貨屋を営んでいる。
父は祖父に反発して一度は家を出ていたらしいが、戦争が始まった頃に帰ってから結婚して家業を継ぎ、
村で唯一の雑貨屋なのでそれなりに隣近所とは親交も深い。多少だが畑も家畜もあるので、裕福ではないが
暮らしぶりに困っているわけでもなかった。そんなよくある田舎の家庭の長男として生まれたのがジャンだ。
幼い頃は人並みにやんちゃもしたが、特に人より優れているところも劣っているところもなくというような
少しぼんやりとしているが基本的に善人のごく普通の青年に育った。
だがそれでいてつまらない人間に見えないという不思議と人を惹くのは彼の魅力の一つなのだろう。
観光名所も特産物もない村は独特な閉鎖的な世界で、外との繋がりも娯楽もないに等しかったが、
それに不平も不満もなかった。
畑を耕し、家畜を飼い、子供を育て、大地に感謝する。
昔は誰もが当たり前に行ってきた生活を何百年も変わらずに続けてきた。戦争も文明もここには無縁だ。
家庭を築きその中でささやかな幸せを育む。
ハボックはこの村の生活を愛していたし、そのことに疑いを抱きもしなかった。
ただ退屈だった。
夢があるわけじゃない、野望があるわけじゃない。村を出た人間の多くがそうであったように。
でもこの場に自分をとどめていたはずの安心とか平穏とかいう類の何かが、気が付けばどこか別の方角に傾いていて、
それがハボックを落ち着かなくさせる。
やさしくあたたかく、少しだけ濁りにも似た危うさを孕んだ場所から抜け出すのに必要なのは
勇気でも決断でもなく、進歩。実を言えば歩いて進むことがどういうことかも理解していなかったけれど、
確かにそれが必要だと思った。
いまはひとりで夕焼けを見つめて。
ハイスクールを卒業してしばらくしたある日、村を出て軍人になると言い出したとき周りは慌てた。
折しも東部内乱の真っ只中だったからである。村は戦火からは遠かったとはいえ、戦争は決して海の向こうの話ではない。
そんなところへ大事な長男をやれるはずがないのは当然だった。
だがもっと驚かされたのは、確固たる主義主張をあまり示したことのなかったハボックが
その一点にだけは頑として譲らなかったことだ。
ハボック本人としても軍の思想だとかそういうものに何かを見出したわけではない。
ただ、ある日目覚めた瞬間、唐突に違和感を覚えるような窮屈さを感じてしまった。
落ち着いた生活、慣れ親しんだ人々。村での生活に不満はなかったが、そのことこそ窮屈だったのだ。
今にして思えば少年ならば誰もが覚えるような、冒険心のかけらが青年になり始めた心に残っていただけだったのだとも、
それまでぼんやりと生きていたツケなのかもしれなかったけれど。だけど我慢できなかった。
骨や髪や爪が伸びて行くのと同じように、こころのどこかで確実にそれは成長し、今か今かと破り去るときを待つ。
一度芽吹いた感情は押さえきれず、衝動感に突き動かされるまま養成所の扉を開いた。
結果的に父親と一緒でこの村に戻ってくるなら別に構わないし、それなら適当に結婚して自分も家を継ぐのだろうと。
両親は最後までいい顔をしなかったが、自分を止めることは無駄だと悟ったのか渋々承諾して送り出してくれたのだ。
そして一年間養成所で徹底的に技術を叩き込まれ、士官学校と違って理論よりも実践重視なので、
卒業後はすぐに前線に投入された。しかしここで彼の運命を決めた最初の転機が訪れることになる。
特殊部隊。
平時には存在せず、軍の中でもその詳細はトップシークレットになっている戦闘のプロ集団。
軍人としてそこに配属されることは名誉であり、またある意味不幸なことでもあった。
能力を買われた点では名誉。しかしほぼ百パーセントの確率で通常軍務に復帰することは難しいとされているのは不幸。
何故なら彼らは表舞台には存在してはならない存在で、その活躍はすべて闇の中でなくてはならない。
しかしハボックはその任を受けた。最初の上官との折り合いが悪かったこともあるし、
なによりハボック自身に生まれた衝動感はまだ、ハボックをどこかへと急かし続けていた。
逆らうほどの強い思いはない。
そして、知った。気が付いてしまった。
命を奪い合う瞬間、自分の中を駆け巡る電気のような苛烈な凶暴さ。
その裏にある氷山を砕いたように冴え冴えとした冷酷さ。
それを隠すために、否、気付きたくないために茫洋とこれまで生きてきたのだと。
動揺よりも妙な納得と諦めが湧き上がった。胸のうちを侵食するこの悟りきったような空虚はもうすでに狂気なのだろうか。
だがそう思う気持ちとは裏腹に任務は過激さを増し、ハボックは殺し方だけがうまくなった。
なるべく、過去は見ないふりをした。



■■■■



「こちら、ムーンフェイス。応答願う」
砂塵が舞い散る埃っぽい空気にさらされながら、ハボックは仕込まれた無線用の小型マイクに囁いた。
ムーンフェイスとは馬鹿馬鹿しいコードネームだが、いつだったか食べ物の名前をつけられたより幾分マシであるし、
実際夜の闇に紛れて移動する彼にとって月は非常にたいせつなパートナーだ。
『こちらブラッディローズ。どうした』
砂のせいかざらついたノイズが無線機に混じって聞こえる。
しかし敵地の直中で大声をあげることはできないので、そのまま淡々とした声音で短く言葉を紡いだ。
「雲が多い。予想よりも早く月が隠れる」
『ターゲットはひとりか?』
「一緒にいる護衛がひとり。他に身辺警護の人間が何人かいるが、窓から入るから問題ない」
『わかった。いけ』
「了解」
今ハボックは単独での極秘任務を遂行しようとしている。
特殊部隊には危険な戦闘任務以外にも、その名の通り特殊な任務が言いつけられることがある。
司令部間における秘密文書の輸送だったり、他国へのスパイだったり内容は様々だったが、
中には軍内部における要人暗殺も含まれていた。
どこかに漏れれば国家レベルの大犯罪だが、この手の任務は多くはないにしろ極稀というわけでもない。
ハボック自身はそんな上の人間の思惑など分からないし、興味もない。思うところがあるとすればひとつだ。
この国はどこかおかしい。
そんな何ともいえない感想だけである。年中戦争をしているおかげで軍人にさえなれば食いっぱぐれることはないが、
まだ二十歳になったばかりの、つい最近までハイスクールに通っていたような青年であるにも関わらず、
いつも意識の半分くらいは世を捨てた老人のようにどこか冷めていた。
一年前に故郷で夕焼けを見つめていたときには掴もうと必死になっていたはずの未来なのに、
いまこの掌にあるのは黒光りする無愛想な鉄の固まりだけで、こんなことを続けながら老いていくのかと思うと
虚しさはぬぐえない。
本当は分かっている。
田舎に帰って家業を継いで、適当に安心を与えてくれる娘を見つけて結婚して暮らすほうが幸せなのだろう。
そのほうが遠い戦場で武勲をたてるよりもよほど両親も喜ぶし、少なくともこの穴の開いたような気持ちは解消される。
ただ理解と行動はいつだって少しずれていて、ハボックにしたって軍人になりたかったわけでも
人を殺したかったわけでもなく、自分が平和に暮らすこの国で戦争があり、人が死んでいく生活が
確かにあるのだというそのことが軍を選ばせた。
戦争にまとわり付く政治的な思想や人種差別というような難しいことは知らなかったし、今だって分からない。
ただ銃を握れば何か見えるかもしれない、とまるで服のサイズでも合わなくなったかのような気軽さで予感したのだ。
理由じゃなく損得でもなく、閃き。
子供の頃から変に勘がいいというか、鼻が利くのでいつでもそれに従って生きてきた。
そのことで後悔したことは一度もない。だから多分、まだ自分はここにいるべきなのだろうと思いながら。
一度目を閉じて、開けたときには走り出した。石造りの壁を特殊部隊仕込みの登攀術を駆使して上る。
戦闘の混乱に乗じて、さっさと高見の見物に赴こうとしたある高級士官の暗殺が今日の任務だった。
命令系統すら定かではなく、特殊部隊の人間しか知らない暗号によって伝えられる任務。
侵入はそれほど難しくはなかった。
それはそうだろう。ここは戦地に近いとはいえ前線ではないし、敵が襲ってくるはずもないのだ。
ハボックが調べたとおり護衛は手薄で建物のなかにも殆ど人の気配はなく、音を立てないように窓から忍び込めば
呆気ないほど簡単にターゲットのもとまで辿り付いてしまった。
殺すのは一瞬の事だった。正体を見られてはいけないという鉄則の掟に従って、仕方なく護衛の者も一緒に。
基本的に暗殺は秘密裏に行うことを要求されるので、音のたつ銃ではなく得物は大ぶりのアーミーナイフ一本だ。
ナイフはてらてらと紅い血のすじをいくつも滴らせるばかりで、驚愕に口を開いたまま絶命している死体とは裏腹に
暗殺者にはかすり傷ひとつついていなかった。
命を削ぎ落とす作業は、動物を解体するよりもよほど容易い。
まるで一本の線のように、どこを切断すれば一番楽に死ねるかを知っている。
傷つけることも苦しめることもなく、一瞬で。
拷問をするよりも簡単だ。生かさず殺さず、救いがないと思えば絶望もない。
そんな煩わしいことは苦手な性分なので、とにかくケリというものを付けなければならない。
その点、死者は口を開かないので楽だった。
この男がどういう人物なのか、ハボックは知らない。死んでしまえば同じだからだ。
どんな家に生まれ、どんな人と出会い、どんな考えを持ち、どんな人生を歩んだかなど知ったところで、
この世界から切り離された時それは一瞬で無意味になる。
そこまで考えて、無意味なのは自分も同じかと皮肉な笑みがこぼれた。
皮手袋を嵌めたまま血を拭い、ナイフを腰のベルトに指す。あとは静かに立ち去って前線に戻ればいい。
どこで足がつくとも分からないので結果報告はしない決まりだ。
成功ならば何ごともなかったようにまた別の任務を待ち、失敗ならば遅かれ早かれ追われることになる。
そうばれば逃げるだけだ。
自分たちには信頼関係もチームワークも必要ない。必要なのは殺す術と生き残る術。
ひとつだけ誤算が生じてしまったのは、仕事を終えたハボックのもとにひとりの若い士官がやってきたことだった。
「何をしている」
ひやりと冷たさを覚えるような声音。
声に温度というものがあるのならこれは薄氷だ。ハボックは長らく忘れ去っていた背筋を這うような寒さを覚えた。
いつもなら考えるよりも早く本能的に身体が動くはずなのに、そう訓練されているにも関わらず、
死体の中で立つハボックは咄嗟に動けず扉の向こうの人物と睨みあった。
夜の中に溶け込んでしまいそうな黒いコート、黒い髪の毛、黒い瞳。
どちらが動くの早いか。
特殊部隊の人間は、捕まるくらいなら死を選ばなければならない。
侵入口に使った窓を破って外へ出るには、二歩分の助走と窓を蹴破るのに一秒いる。
相手の得物が知れないが、それだけの余裕を許してくれるだろうか。迷っている暇はなかった。
窓の方向へ一歩飛べば次の瞬間、窓は巨大な爆発音を立ててガラスを散らした。
ハボックはためらうことなく窓の外へ身を躍らせる。
彼が破ってくれた分、逃げやすくなったことに感謝しながら。
全速力で連絡ポイントまで駆け抜ける。追って来る気配はなかった。
息を乱すほど走ったのは久しぶりで、つまさきから駆け上がる痺れや生を主張するような動悸がやまなかった。
もっともっとと、何に対してかも分からないものに急かされて。
足を止めたら乾いた空気を吸い込んだ喉が張り付いて、不快だった。
それでも目の前に広がった空には星が瞬き、月は夜空に鮮やかなシルエットを描く。
今までも見てきたことのあるはずの景色なのに、どうしてか今日に限ってハボックは故郷で見た夕焼け空を、
そして夜に変わり行くその風景を懐かしく思い出していた。
懐かしいと感じるほど遠くに来ていたのかと思う。振り返って、無知で無力で怖いものなんて何もなかった自分。
いまはあの焔に恐怖なのかあるいは歓喜なのか、かつてハボックを酷く落ち着かなくさせたのと同じ眩暈を感じている。
頭を覆っていたマスクを脱ぎ、かさついた唇を舌で舐めると、埃っぽい渇いた味がした。
多少手順は変わってしまったが作戦は成功だ。
それなのに、これは何だ。
もう随分と相手との殺し合いに心臓を揺さぶられるようなできごとなどなかったというのに。
一歩遅れをとってしまったということも要因のひとつだったが、それよりもハボックを強く動かしたのは、
瞼の裏でちらついて離れない焔。あんなものを見たことはなかった。まるで魔法みたいだった。
恐らくアレが錬金術と言うものなのだろうとは予想がついたが、殺そうと思えば彼は自分に焔を当てることもできたはずだ。
相手の手の内が分からなかったのは、こちら。
逆光で顔はよく見えず、自分も目出し帽を被っていたのでお互い顔は殆ど見えていなかったはずだ。
だけど、彼がどんな顔をしていたか分かると思った。
目が合った。
そのとき確かに彼を見た。漆黒の闇を見た。
その闇の中に一筋だけ射抜くような強い光が溢れ、決して何者とも相容れることのない、
まるで世界中にたったひとりしかいないのだと思い定めているような。
戦場にいれば世界と相容れない、というような人種に出会うことは少なくはない。
でも彼はそんな人間たちとは根本的に似ていない。
他の人間がただ異質なだけならば、彼はもっとごく自然な範疇で違う。そうであることが当たり前だというように。
もう二度と会うこともないだろうということが、少しだけ残念だった。



特殊部隊に入隊し約一年。
南部を転々としながら対ゲリラ戦を繰り返したが、アエルゴとの国境周辺の抗争も一段落付き、部隊は解散した。
対抗勢力も今は一応南方司令部の管轄下に入っている。そこで問題になったのが隊員たちの行く末だった。
最も危険といわれる戦場を生き抜いてきただけのことはあり、戦闘技術、基礎体力、生存能力、
そして悪運だけはずば抜けて高い者達ばかりだ。戦いに身を置く者としては申し分ない。
だが彼らには軍人として決定的に欠けているものがあった。
軍への従順と絶対の忠誠。
東部内乱における国家錬金術師とは違いあくまで彼らは影の存在である。
とはいえ、名目上は特殊部隊とて軍の統治下に属しており、活躍によってそれなりの報奨も与えられていた。
だがもっと根本的なところで、己の力だけを頼りに生き残る階級よりも実力社会に長年いたせいで、
彼らは基本的に組織への適応能力が極めて低かった。
どこの司令部にしたってそんな厄介者を快く引き受けてくれるはずもない。
結果あちこちの部隊をたらい回しにされて嫌気が指してやめていく運命になるのである。
その後裏稼業へと転落していく者の多さもトップだった。
戦闘の日々から突然平和な場所に放り込まれて、はじめこそ多少の戸惑いも感じたものの、
田舎生まれて育ったハボックがそのまま茫洋とした日々に戻るのは簡単だった。
ただ人間として敬意の払えない上官に媚びたり頭を下げるのだけはどうしてもできず、
解散後まず勤務先になった南方司令部で上官を殴ってあっさり異動を命じられ、今現在北方司令部に籍を置いている。
突き刺すような寒さには閉口したが、ここは今でも国境付近でドラクマとの睨み合いの硬直状態が続く、
アメストリスの中でも治安の悪い土地だ。比較的気性の荒い人間の多い環境は悪くはなかった。
もともと正義感だとか使命感だとか崇高な目的があって軍人になったわけじゃない。
やらなければやられるという極限状態の中で、戦闘になれば相手を殺すことすらためらわないが、
血を見たり殺すことに快感を覚えるほど精神状態がおかしくなったわけでもない。
ある意味、そんな自分のほうがよほどいかれてしまっているのかもしれない、とは何度も思ったけれど。
狂ってしまえるほうがよほど楽なのに。
それすらも他人ごとのようにハボックの上を通り過ぎた。
北部への異動が決まった時、またかという面倒くささは感じたが南方司令部には何の未練もなかったし、
死神に散々嫌われて生き残ってきた自信はあったので恐怖もなかった。
わずかばかりの好奇心はあったかもしれないが。
荷物と言うほどの荷物も持っていなかったので、身一つで北方司令部に赴いた。
雲ひとつなく、水色のインクを一面にぶちまけた様な空だった。
故郷の空よりもうんと空気はつめたく、いま自分がどんな状況に置かれているのか不思議なくらい興味がなかった。
水の上を歩くようにどこにも根付くことなく、波紋のようにわずかな痕跡だけ残して、それすらもいつかは消えてしまう。
そんな風に生きてきたのだ。多分これからも。
特殊部隊に入って始めての実戦でペアを組んだ相方に言われた言葉がある。
―――お前には執着心がないんだよ。
見事に言い表されて、まったくその通りだと自分でも酷く感心したものだ。
物にも人にも生にすらもハボックは興味がない。
地位も名声も金銭もくれるのであれば欲しいし、女性だって好きだし、死ぬのだって嫌だから殺し続けた。
欲望がないというわけじゃない。ただそのために努力だとか何かをなすことに意義を見出せないのだ。
その相方も今は土の下で眠っている。もっとも棺に入って弔われたわけでもなく、戦場に捨てられるような形で
放置されてしまったはずなので、獣の餌になった可能性のほうが高いかもしれないが。
優秀な男であったのに些細な事から上官の不況を買い、追いやられるように特殊部隊に派遣され、
まさに犬死というやつだ。
ツキがあるうちはまだ死なないだろうし、それが尽きた時、自分もこうやって死んでいくのだろうとぼんやり思った。
家族は悲しむだろうけれど、それ以外の誰のこころにも残らないように。
けれど北方での生活に慣れ始めた頃、運命はそんなささやかで甘いものを用意してはいなかったことを知ることになる。
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